勤務医の退職時のトラブル
前例をリサーチしてトラブルを避ける
クリニック開業が“夢”ではなく、実現可能で具体的な“目標”へと変わってくると、「さあ勤務医は卒業だ」「今の病院はすぐにでも辞めよう」と居ても立ってもいられなくなるもの。しかし気持ちがはやるあまり、勤務先の都合も考えず性急に退職してしまうと思わぬトラブルを引き起こさないとも限りません。医師の世界はそう広くはないため、噂話、とくに悪評は伝わりやすく、開業後のクリニック経営に影響を及ぼすこともあり得ます。無用なトラブルに足を引っ張られないように、勤務医の先生が退職される際は「立つ鳥跡を濁さず」の心掛けで臨みましょう。
退職トラブル回避の第一歩は、リサーチから始まります。医療機関ごとに慣例が異なることも多いため、過去そこに在籍していた医師たちがどのようにして退職していったのかを古参の医師やスタッフに尋ねてみるのです。辞める際に一悶着あった先生は誰しもがよく覚えているもの。その人を反面教師として、「何が問題だったのか」「どうすれば良かったのか」を考えておくと、医療機関ごとに合った身の処し方が見えてくるはずです。
退職を告げる相手とタイミングを読み違えない
トラブルを避ける上で、見誤ってはならないのが退職意思を伝える相手。まずは直属の上司に申し出るのが、医師の世界に限らず一般的な世間の常識です。そのため身近に口の軽い同僚やスタッフがいる場合には、内密にしておいたほうが賢明でしょう。万一上司への報告が済む前に、先生が辞めようとしていることが院内の噂になってしまった場合、部下の管理責任を負う上司の面目は丸潰れになるからです。「ウチは大学病院みたいに上下関係にはうるさくないから大丈夫」と高をくくる先生がいらっしゃるかもしれませんが、こと人の進退といった重要事項については慎重に行動すべきです。
退職の意思を伝える相手とともに、しっかりと見定めねばならないものが切り出すタイミング。「クリニックの開業準備もあるし再来週には辞めます」と勤務医が突然報告したとして、すんなり了承する医療機関があるでしょうか。引き継ぎや関係各所への挨拶にも時間が必要ですし、代わりの医師がすぐに確保できるとも限りません。円満退職を目指すのならば、少なくとも3〜6カ月間の猶予期間を見込んだ上で話しを切り出すのが良いでしょう。なお医療機関によっては、さらに前倒しして退職意思を表明するのが通例となっているところもあるため注意が必要です。
優秀な勤務医ほど強い引き留めに会う
うまく退職を切り出せたとしても安心はできません。地方を中心に医師不足は深刻度を増しているため、退職を慰留されるケースが増えているのです。先生が優秀であればあるほど、「なんとか考え直して欲しい」「君の代わりは見つからない」などと、強い引き留めに会うことでしょう。その結果ズルズルと退職時期が遅れていき、開業への情熱が冷めてしまわないとも限りません。慰留の余地があると思われないよう、決意の固さをしっかりと示すことが重要です。また、上司の「しばらく考えさせて欲しい」といった態度を保留するような言葉に対しては、次の話し合いの日程を決めておくことも忘れてはいけません。
こうして退職日が決定すると、ついクリニックの開業準備などに意識が奪われがちですが、当然ながら辞めるその日まで業務に手を抜くことがないよう気をつけてください。辞め際をどう過ごしているかを、意外と周囲は見ています。むしろ今まで以上の仕事ぶりを見せるような気持ちで、残りわずかな勤務医としての勤めを全うなさって下さい。
贈るものでセンスや知性を試される開院祝い
勤務医としてある程度のキャリアを重ねてくると、先輩や同僚、ともすれば後輩といった身の回りの中から、独立してクリニックを開く人たちが現れ始めます。時には「モタモタしている間に先を越されてしまった…」など複雑な思いに駆られることがあるかもしれませんが、例えそうだったとしてもご自身を開業へと奮い立たせる良い契機として前向きに捉え、「次は自分が」の決意を開院祝いに秘めて贈ってみてはいかがでしょうか。
とはいえ実際に選ぶとなると、自分のセンスや知性を試されているようで非常に難しいのが開院祝い。普段からプレゼントのやりとりに疎い、いわゆる“ギフト慣れ”していない人であればなおさらです。「定番の胡蝶蘭を贈っておけば間違いはないだろう」と無難な選択をしたつもりでも、受け取り主に心理的負担をかけることもあるので細心の気配りが必要です。
定番のお祝いには意外な落とし穴も
たしかに胡蝶蘭は、『幸福が飛び込んでくる』という花言葉を持つ、縁起の良いお祝い。花が長持ちすることも人気の要因の一つです。しかしその人気が裏目となって、開院したばかりのクリニックには飾りきれないほどの胡蝶蘭が集まることも。「スペースはないけれど、目につくところに置いておかないと送り主に顔向けできないし…」と、受け取った人を悩ませるケースが少なくありません。大ぶりのスタンドフラワーや観葉植物もまた、同様の問題を招く可能性がないとは言い切れません。
また、時計や絵画をはじめとするインテリアもお祝いの定番と言えますが、これらについてもかなりの選択眼を求められるようになってきています。というのも近年オープンするクリニックの多くが、素材や色調など、統一されたデザインイメージに則って設計されており、それにマッチした品を選ぶためには、贈る側にもそれなりのインテリアセンスが求められるからです。成功すれば「さすが!」と一目置いてもらえること請け合いですが、ここは十分に熟慮されたほうがよさそうです。