歯科医療の現状

歯科業界の現状

 

現在、歯科業界は構造不況業種の一つとされており、業界内の競争が年々激しさを増しています。歯科医師は毎年約2,000人近く増加し続けていますが、歯科医院の多くが個人事業主であり、定年による引退がないので歯科医院は増える一方です。

 

しかし日本の人口は減少傾向であることを考えると、患者数が増えるということは考えにくく、増え続ける歯科医師が患者を奪い合うという状態が今後も続くことになります。

 

厚生労働省の調査によると、全国の歯科診療医療費の総額は、平成28年度は2兆8,574億円でしたが、平成29年度は2兆9,152億円と横ばいからわずかに増加といった状態です。これは、厚生労働省が医療費の値段を決める公定価格などによる、国の相次ぐ医療費抑制政策が行われているためです。さらに、歯科衛生士の人件費高騰も厳しい状況に拍車をかけ、東京商工リサーチが行った調査によると、2017年度の歯科医院の倒産数は20件で、前年度と比較して81.8%の増加となりました。

 

業界定義

 

歯科業界を大きく見ると、歯科医院(開業医)と歯科病院、医院に治療料の器材を販売する歯科器材メーカー、薬を販売する歯科用医薬品メーカーなどが含まれます。

 

中心にある歯科医院・歯科病院は、「歯科」、「矯正歯科」、「小児歯科」、「歯科口腔外科」、「審美歯科」に分類されます。

 

それぞれの歯科で働いているのは歯医者(院長=開業医、勤務医の歯科医師)、歯科衛生士、歯科技工士などとなっています。

 

口腔環境の意識変化にともなう治療内容の変化

 

近年の各種研究により、歯や口腔の健康が糖尿病や胃炎、皮膚炎、早産など、全身の健康に大きく影響していることが明らかになっています。

 

また、以前より子供の歯に対する意識が高まっており、歯磨き粉などのケア用品もフッ素入りのものが出回るようになったことで、虫歯が原因で診察を受ける子供は年々減少しています。また、子供だけではなく、大人も虫歯になる前の予防を重視し始めていて、歯石除去や検診のために定期的に通院する人が増えてきました。歯の健康に対する意識の高まり、予防の重視、この2点により、治療内容は「修復治療」から「予防処置」へとシフトしています。

 

高い専門性や特徴のある医院の生き残り戦略

 

歯科医師の増加、歯科医院の供給過多、治療内容の変化により、歯科業界には大きな荒波が押し寄せています。特に都市部の歯科医院は、従来のように新規の患者が来るのを待つような受け身の営業を行っていると、営業利益が少なくなっていくという状態です。そのため、サービス内容において他社との差別化を図る歯科医院が増えてきました。

 

どのように差別化を図るかというと、虫歯予防やホワイトニングなどの専門性を持った歯科医院や、豪華な内装やカウンセリング、使用機材、素材を高価なもので統一する富裕層向けの歯科医院といった特徴を打ち出すことです。こうした対策を講じることで、新規患者の獲得を目指しているのです。このように、最近では歯科医院ごとの特色を打ち出して集客を始めているという傾向があります。

 

さらに、専門性の高い歯科医院では、健康保険などを適用せずに受けるインプラントや、ホワイトニングといった審美治療などの自由診療を選択する患者が、自分が受けたい治療のために遠方から足を運ぶということが増えています。

 

歯科業界でM&Aが行われる理由

 

ここでは譲渡企業(医院を譲り渡す開業医)と譲受企業(医院を承継して開業する歯科医師)に分けて、主なM&Aのメリットについて説明します。

 

M&Aとは

 

M&A(エムアンドエー)とは、「Mergers and Acquisitions」を略した言葉です。日本語に訳すと「合併と買収」になります。複数の会社が1つになったり、ある会社が他の会社を譲り受けたりする経営戦略のことを言います。

 

歯科業界でM&Aが行われる理由は、団塊の世代の引退や歯科業界の患者のニーズに合わせたサービス内容の変化、他社との競争の激化など、世代的や経済的な問題によるものが多くなっています。ここでは譲渡企業と譲受企業に分けて、主にM&Aのメリットについて説明します。

 

譲渡企業のメリット

 

歯科医院のオーナーがM&Aを検討する理由としては、主に「団塊の世代であるオーナーが引退の時期を迎えたこと」「地域の患者への継続的な治療の提供」があげられます。

 

歯科医師の場合、病院での診療科目になっているところが少なく、自らが歯科医院を開業するケースが多いです。そのため、歯科医院は個人事業主が多く、あまり勤務医を必要としていません。

 

こういったことから、後継者を身内の中から指名するか、親族外へ事業の引き継ぎをしなければならないケースが多くなります。そのような背景があり、最近では後継者不在の問題を解決するための手段として、歯科業界でのM&Aによる事業承継という形が注目されつつあります。

 

また、従来の修復治療中心の歯科医院の場合、今まで通院してくれた患者から継続を求められるなど、簡単に閉院することができないという現状があります。そのため、オーナーが患者の診療を継続することを望んでM&Aを行うというケースがあります。

 

また、銀行借り入れの際の個人保証や担保を外すこともでき、創業者利益を得て、なおかつ社会的信用を維持したまま安心してリタイアすることが可能です。

 

その他にも、自分の利益以外に、歯科医院で働く従業員の雇用も維持できます。歯科医院の倒産が増えている中、M&Aを行うことによって倒産により従業員が職を失うという状況を回避することができるのです。

 

譲受企業のメリット

 

一方で譲受企業も、歯科医院の新規開業と比べて大きなメリットを受けられます。

 

歯科医師が個人で歯科医院を譲り受ける場合は、それまで営業してきた歯科医院の患者や患者からの信用、運営ノウハウなどを享受できます。また個人で歯科医院を新規開業するためにかかるコストは大きなものになりますが、使用していた器材の引き継ぎができるなど、開業に必要な資金が大きく抑えられます。

 

また、企業がM&Aによって新たな歯科医院を手に入れる場合は、原価低減や間接コスト低減などの利点があるスケールメリットを受けられます。新しい歯科医院を傘下にすることで新規顧客や新たなメソッド、資格を保有している優秀な人材などを獲得でき、歯科を運営する企業として成長スピードの飛躍的な向上が期待できます。