開業時の事業計画に関して
事業計画の原型は頭の中に
「融資を受けるための事業計画」と聞くと、なんだか小難しい専門的なもののように感じられる先生もいらっしゃるでしょう。あるいは「どう計画を立てればいいのかサッパリ分からない…」というご意見もちらほら。ですが必要以上に難しく考えることはありません。最終的には税理事務所やコンサルティング業者などの手を借りて立派な書類の形になるかもしれませんが、そもそもはクリニックにかける先生の想いや将来の展望を伝えるためのもの。
つまりその原型はすでに先生の頭の中にあるはずなのです。まずは箇条書きレベルで良いので、ご自身が開業することの意義やクリニックの将来像、収益目標などについて書き出し、整理してみましょう。文章化・数値化することで、漠然としていたプランがだんだんと姿を現していくことでしょう。もし計画書の作成を業者に依頼するつもりでも、このアイデア整理の行程だけはぜひご自身でなさって下さい。より精度の高い計画書が最初から期待できますし、融資の審査面談時にも慌てることなく受け答えが可能となります。
計画は徐々に練り上げていく
頭の中の整理がついてきたら、事業計画の大枠を策定してみましょう。もちろん、いきなり完璧なプランを目指さなくても結構です。「どこから見ても隙のない構想にせねば」と肩肘張るのではなく、まずは「計画の足りない部分を発見するため」ぐらいに捉え、お知り合いの開業医やコンサルタントなどに相談しながら練り上げていくことをお薦めします。大雑把に言うと事業計画は、経営基本計画・資金計画・収支計画から構成されます(もっと細分化する考え方もありますが、最初はこのぐらい大まかに捉えていた方が分かりやすいでしょう)。経営基本計画とは、経営理念や診療内容、開業場所など、クリニックの根幹に関わる構想部分。「なぜこの場所にクリニックを開設するのか」「どのような診療で地域に貢献しようと考えているか」が明確に伝わるようにしておく必要があります。同様に、資金計画・収支計画には、「開業にあたって、何にいくらのお金が必要か」「それらをどう調達するのか」「どれくらいの利益が見込めるか」「返済スケジュールはどうなるのか」などについて明らかにしておかなければなりません。
貸し主の視点で計画を検証
これまでの実績がないため、創業時の事業計画は「未来予測」の側面が非常に強くなります。すなわち融資を受けようとする際は、担当者を説得できるほどの客観的な根拠が必要だということ。しかしだからといって「お金のプロを説き伏せるなんて…」と匙を投げることはありません。逆に先生が開業志望者へご自身の資産からお金を貸すとしたら…、と想像すると良いでしょう。クリニックの優位性や将来性、利益率や返済能力について具体的な数字の裏付けが欲しいと思うはずです。この「貸し主サイドに立った時に自然と湧き上がる疑問」について妥当性のある解答を先回りして用意しておくことが“融資成功率の高い事業計画”の秘訣と言えます。確かな予測の数々で綿密に練られたプランほど、実現可能に思えるものです。ご自身の事業計画をチェックする際は、借り主だけでなく、貸し主の視点でも検証しておくことを強くお薦めします。
設計の基本構想は患者目線で
「クリニックは自分の理想を追求した設計にしたい!」という意気込みは、開業を検討なさっている先生ならお持ちでしょう。苦労して一国一城の主となるわけですから、そのお気持ちは当然です。ですが経営的側面から見ると、クリニックは患者さんのための施設でもあります。訪れる人が安心して診察を受けられる、快適な空間づくりを念頭において、設計の基本構想を固めていきましょう。では具体的にどこに気を配れば、クリニックを安心・快適だと思ってもらえるのでしょうか。もちろん患者さんの男女比・年齢構成によって多少の違いはありますが、どんな場合でも「ここだけは」と優先すべき場所があります。それは、診察室でも処置室でもなく、待合室。リラックスできるようゆったりしたスペースを確保し、柔らかい光と暖かみのある色調でまとめることが肝心です。待合室全体が見渡せる位置に、オープンカウンターの受付を設置するのも良いアイデア。コミュニケーションがとりやすく、患者さんの安心に繋がるでしょう。なにしろ待合室は、外来患者が一番多くの時間を過ごす空間。ご自身が患者になったつもりで、心地よさを考えてみて下さい。
“表も裏も”得意な業者をコンペで見つける
実際の設計自体は設計士、または設計業者に依頼することになりますが、その選定の際は、ぜひ複数業者による競合コンペを行って下さい。一社に限定した(さらにそのことを相手側に伝えている場合の)見積り価格は、どうしても高くなる傾向があるからです。そもそも初めての開業の場合、一社からの見積りでは、提示された金額が相場に比べて高いのか安いのかすら判断できません。全幅の信頼を寄せている設計士をすでにご存知であれば別ですが、先に開業されている先輩や、開業コンサルタント、融資を受ける銀行などに相談し、見積りを作成してくれる業者をいくつか紹介してもらうようにして下さい。ただし競合させる業者については、医療機関の設計実績があることを条件にするべきです。一般住宅や商業施設と違い、医療機関の設計は経験が物を言います。各部屋の適度なサイズ感や、患者・職員の動線把握など、機能性に関する知見が実際の使い勝手に大きく影響してくるからです。先にお伝えした待合室やトイレが、患者の目につきやすい“表面”の設計だとしたら、この医療施設としての使いやすさに関する設計は“裏面”。両面ともに満足のいく設計をしてくれる業者を見つけることも、コンペの目的のひとつと心得ましょう。