院外処方と院内処方

院外処方を選択すると収支面で有利に

 

診察を受けたその病院やクリニックで薬を受けとる─。30年ほど前までは普通に見られたこの院内処方の風景が、近年では減少しています。いわゆる「医薬分業」が進み、院外処方を選択する医療機関が増えたためです。今回のメールマガジンでは、なぜ院外処方は増加したのか? 開業時にはどちらを選択するのが有利なのか? などについてお伝えしていきます。将来ご自身が独立して開業医となる際のヒントとなさって下さい。

 

「クリニックが得するから院外が増えているんだよ」と考えた先生も数多くいらっしゃるのではないでしょうか。その通り、院外処方が増えている原因は経営者サイドから見たメリットが大きいからに他なりません。例えば収入面でいえば処方箋料については院内処方の場合より高い点数となっていますし、支出面では薬剤購入費は当然として、薬剤師らの人件費や調剤関連機器のための費用が不要になります。

 

選択のメリットが減少してきた院内処方

 

もちろん院内処方にも収支上のメリットはあります。薬価差益と呼ばれる利益です。仮に薬を安く仕入れることができれば、患者が払う薬の値段(薬価)との差額はクリニックの収入となるのです。事実、以前はこの収入が無視できないほどに大きかったため、新規で開業医となる医師の多くが院内処方を選択していました。しかし、医療費削減の流れを受け、公定価格である薬価は年々引き下げられています。差益は縮小の一途を辿り、今では「ほとんどない」と断言する医師もいるほど。つまり財政的に見ると、院内処方を選んだクリニックは不利になる可能性が高いと言わざるを得ません。

 

また比較的小規模なクリニックにとって、院内処方に対応するだけのスペースを確保するのは難しいことでもあります。狭いクリニックに薬を大量に保管しておくよりも、院外処方にしてしまって診療スペースの拡充を図りたいと考える医師は少なくないでしょう。院内処方で開業するには、“クリニックの広さ”という物理的な制約も乗り越える必要があるということ。では、院内処方の選択にはメリットが全くないのでしょうか?

 

患者の利便性も含めた中長期的視野も重要

 

実はそうとばかりも言えません。今までお伝えしてきたのは、あくまで経営者サイドから見たメリット/デメリット。患者からの視点では少々様子が異なってくるからです。患者の中には、院外処方を「面倒くさい」と感じている人が少なくありません。体調が悪くて医療機関を訪れたはずなのに、クリニックから薬局へわざわざ移動して、その度に順番を待って支払いを済ませなければならないのです。さらにその支払い金額は、院外処方により高くなった処方箋料が含まれています。

 

手間も費用も負担増となれば、患者が院内処方を望むのも無理はありません。たしかに自分の都合に合わせて薬局を選べたり、飲み合わせなど薬についての詳しい説明が受けられるといった院外処方の良い点はあるものの、それらを理解し評価している患者はまだ多くないというのが実情です。つまり患者の利便性だけで比べると、院内処方が一歩リードといったところ。ここに着目して“あえて”院内処方を選ぶ医療機関も存在しています。患者本位のサービスが差別化となり集患につながれば、長い目で見た場合にはプラスとなるという考え方です。ご自身が開業される際には、ぜひこのような中長期的視野も取り入れて検討されることをお薦めします。

 

コスト削減の習慣がクリニック経営を助ける

 

クリニック開業にもう一つ踏み出せない先生の中には、「患者がたくさん来てくれる時期ばかりじゃないだろう。収入が落ち込んだ時のことを考えると独立して開業医になるのはリスクだな…」と考えている方もいらっしゃることでしょう。たしかにクリニック経営は山あり谷あり。増患どころか閑古鳥が鳴きだす始末、といった事態もあり得ます。ですがそんな苦しい状況でも、なんとかやりくりしていく手段がないわけではありません。懐寂しいサラリーマン諸氏のお小遣いと一緒で、入ってくるお金が少ないのなら出ていくお金を減らせばいいのです。無駄な経費を見つけて削減していく姿勢がクリニック全体で身につけば、患者数が伸び悩んでいる時に助かるばかりか、好調時には経営の安定度がさらに高まります。勤務医として働いていると、無駄なコストを問題視する機会は比較的少ないかもしれませんが、開業後は否が応でも意識させられます。コスト削減の手法を知ることは、その意識改革の一助となるかもしれません。

 

最初のターゲットは、最も大きなコスト・人件費

 

コスト削減となると、あれも節約これも節約と、目についたところから片っ端に手をつけるイメージがあるかもしれませんが、まずは効果的かどうかに注意を払いましょう。クリニックの収支を細部までよく確認し、最も大きな無駄が潜んでいそうなポイントを探るのです。削減したところで大した節約にならないことをチマチマと続けるのは、そのこと自体がすでに無駄とも言えます。そこで、最初に目をつけるべきなのが人件費。多くのクリニックでは、スタッフを雇うことで必要になる経費こそ、最も大きなコストとして経営にのしかかっているはずだからです。

 

例えば単純作業を常勤スタッフが長時間行うのが常態化している場合は、正社員をパートやアルバイトに置き換えることを検討してみましょう。正社員にかかる各種社会保険料はクリニックにとってかなりの負担ですから、人件費の高いスタッフには、それに見合う仕事をやってもらわないと割に合いません。また、来院患者が極端に少ない時間帯、つまり収入に対して人件費コストが割高な時間帯があるようなら、スタッフ配置や診療時間の見直しを図りましょう。さらに、スタッフへの賞与を勤務年数に応じた一定額で支給している場合は、業績と連動した成果主義の賞与へ移行するのも有効です。

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