コロナショックで、50代に迫る退職勧奨の危機
緊急事態宣言は5月末までの延長が決まりました。在宅勤務については、引き続き全国で推進するよう要請し、特定警戒都道府県では「出勤7割削減」を求める方針です。
特定警戒都道府県以外では、人との距離を確保したり、手洗いや換気に努めたりするなど「新しい生活様式」を示すとしています。
しかし、緊急事態宣言が延長されたことで経済活動へのさらなる影響が確実なものとなりました。2カ月経過後も、外出自粛、休業などの要請が一気に解除されることは考え難く、感染拡大を避けるための自粛行動は続くものと思われます。
社内失業者が発生する理由
緊急事態宣言による自粛の長期化で、雇用への影響が危惧されています。ワクチンや特効薬が存在していないということは、自粛による影響が来年以降も継続する可能性があることを意味しています。自粛の影響で失職する人が増加することは間違いありません。当然ながら日本全体の雇用状況にも大きな影響を及ぼすことになります。
リクルートワークス研究所の調査資料『2025年 働くを再発明する時代がやってくる』によれば、2025年の労働市場を悲観的に予測すると、就業者が2015年と比べて557万人も減少する一方で、497万人もの「雇用保蔵者」が生まれることになるとしていす。
「雇用保蔵者」とは、事業活動に活用されていない人材のことで、いわば「社内失業者」のことです。少し古い言い方をすれば、「窓際族」などと呼ばれるような人のこと。会社に在籍しながらも、お金を稼ぐような業務にタッチしていない人々です。
こうした人々は、会社からすれば大きな負担ですが、解雇規制があるためなんとか解雇を免れているような状態です。そうした人々が、わずか5年後には日本全国で500万人も存在するというのは尋常ではありません。
しかしこれは決して絵空事ではないのです。そして、そうなると特に心配なのが現在の50代です。
労働市場において中高年層の転職は、とりわけ人材流動性が低いことから、簡単ではありません。社内でキャリアパスを積んできていない人、プロジェクトの経験が少ない人、昇進昇格によってポストに有りついていない人は、転職したくてもなかなかできないのが現状です。
また、50代は「役職定年」とされている年齢層にあたります。「役職定年」は会社によって設定年齢が異なりますが、決められた年齢時に課長や部長に昇進していない人は、おおよそ50代のうちに主要な役職から外れることになります。
その後はいわば平社員。部下がいなくなり、マネジメントする必要もなくなりますから、報酬は大幅に下がります。さらに、大きなモチベーションダウンが生じると言われています。
その一方で、「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」(高年齢者雇用安定法)の一部が改正されたため、希望すれば65歳まで働き続けることが可能になりました。そのため、役職定年後のモチベーションの低い社員が、10年以上、会社にぶら下がって過ごすことも可能になったのです。結果的にこのような人材は生産性を生みにくくなり、会社にとってはコスト要因となってしまいます。
コロナ感染拡大でリストラ加速
そこにやってきたのが今回のコロナショックです。ほとんどすべての業種において業績悪化は避けがたい状況です。大規模なリストラも始まるでしょう。そこでターゲットにされやすいのが、役職定年を過ぎ、しかも人数的にもダブついている50代です。有能な人もそうでない人も含め、この世代を狙ったリストラが展開される恐れが出てきています。
退職を促され、転職市場に打って出てみても、そこで新たな職にありつけるのは若手に限定されます。50代はかなりの苦戦を余儀なくされます。であるなら、できる限り会社に残る道を探したほうがよさそうです。
会社もいきなりクビにするわけではありません。まずは人事担当者が面談をしたりして、希望退職者を募っていきます。
「私はこれまで会社に貢献してきた。家では受験を控えた子どももいるし、住宅ローンも抱えている。いま会社を辞めるわけにはいかない」
このような立場にいる人は少なくないと思います。しかし、会社は個々の社員の事情などお構いなしに、容赦なく退職勧奨をおこなうはずです。
「いまの報酬のまま雇い続けることはできない。せめてこれくらいに減額してもらわないと」という具合に、大幅な報酬カットを提示されるかもしれません。受け入れられる程度の減額なら、そこで妥協するのも手です。
「それでは生活が立ち行かない」と言って、会社側が提示する不利益変更を拒否したとしても、きっとその後、何度も何度も面談をさせられるはずです。会社は、強要はできませんが、社員が報酬減額か退職のいずれかに応じるまで、延々と面談を繰り返すでしょう。
そうやって仮に運よく会社に残れたとしても、それまでとは異なるキャリアの部署に回され、キャリアをゼロから作り直すことを強いられることもあるでしょう。そこで嫌気が差して辞めるのをまっているのです。
方策は残されていないのか
バブル入社組を「お荷物」と言うのは簡単です。しかし、就職した当時は、企業が奪い合うようにして獲得した人材です。いまになって、「諸悪の根源」のように言われる姿を見るのはあまりにも切ないものです。50代に、なんらかの対処法はないのでしょうか。簡単ではありませんが方策はあると考えています。
1つ目はスピードです。ビジネスシーンでは有能な人材を評価する時、「仕事が速い」という表現を使うことがあります。「仕事が速い」=「仕事の効率がよい」という評価がされるので、「デキる人」と受け止められます。だたし、少々スピードが速いだけではインパクトがありません。例えば、通常は1カ月かかるような仕事を1週間で終わらせるような、圧倒的な成果を見せ付けられれば辞めさせられることはないでしょう。
2つ目は数字です。たとえば、あなたの年間売上目標が1億円なら、これを1カ月で達成してしまうとか、倍の2億円を売り上げてしまうといった、強烈な数字をマークすれば絶対に辞めさせられることはありません。会社は、ビジネスを行うための“場”に過ぎません。数字が取れる役者になればギャラがはね上がるように、売上を大きく左右する存在となれば、会社は放っておきません。
もちろん、これらはそう簡単に実現できることではありません。ただし、会社はお金を稼いでくれそうな雰囲気を持っている社員を辞めさせることはしません。逆に言えば、すぐに数字が上がらなくてもよいので、可能性を全力でアピールするのです。そして、実績になりそうな仕事の準備に取り掛かるのです。
なお、会社から退職を迫られたときに、自分の主張だけを押し付け、会社と争うようなことはおススメしません。
あなたに言い分があるように、会社にも言い分があります。争うことなく、したたかに解決しなければならないのです。