医療法人

「法人」とは、法律上に認められた架空の人格

 

独立後の開業を決意されている先生の中には「将来的にはクリニックを医療法人化したい」と、いわゆる“法人成り”を視野に入れている方もいらっしゃるでしょう。一般的には、「かなりの節税が見込める上に、社会的信用も増す」というプラスイメージで語られることの多い医療法人化ですが、逆にデメリットとなる点はないのでしょうか。そこで今回のコラムでは、クリニックを医療法人化する上でのメリットとデメリットについてお伝えしていきます。「法人にした方が儲かるらしい」ぐらいの安易な気持ちで法人化し、後で悔やむことのないよう、個人経営のクリニックと異なる点をきちんと把握しておきましょう。

 

ですがその前に、そもそも「法人」とは何でしょうか? ごく簡単に言えば「法律上、人として扱うことが認められた組織」です。クリニックを医療法人化すると、そのクリニックを所有し経営するのは、創設者の先生ではなく医療法人だということになるのです。この点を先に理解しておくと、法人化のメリット・デメリットが整理しやすくなることでしょう。

 

医療法人とは?

 

厚生労働省が公表しているデータによると、医療法人は全国に50,866件(平成27年3月末)あります。医療法人はもともと個人経営から経営資源(預貯金、医業未収金、不動産、貸付金、買掛金、未払金、借入金)をスライドするかたちで設立します。

 

従来は、これを現物出資とする「持分」という概念があり、医療法人の成長とともにその価値が出資者(理事長ほか)に帰属するものとされていました。しかし、第5次医療法改正により、平成19年4月以降に設立された医療法人については従来のような持分のある法人は認可されなくなり、持分のない「拠出金制度」(医療法人が解散しても残余財産の帰属が国等)に移行しています。

 

現在の医療法人制度は下記のように説明されます。

 

医療法人って何?個人病院と何が違うの?

 

医療法人とは、医療法の規定に基づき、各都道府県知事の認可を受けて設立される、病院、医師、歯科医師が常時勤務する診療所または、老人保健施設を開設・所有を目的とする法人のこと。個人病院として始めた病院が法人化すると、個人事業主だったドクターは、病院から給与をもらう給与所得者になります。

 

医療法人化によるメリット・デメリットとは?

 

では、個人と法人のどちらが良いのでしょうか?判断に迷うかと思いますが、医療法人にすることによるメリットとデメリットをあげると、主に次の通りとなります。なかでも大きなものに、所得税と法人税の税率差による節税効果への期待が挙げられます。

 

医療法人で働くことのやりがいと厳しさって?

 

医療法人で働くということは、常に人の命に関わるということ。一瞬の気の緩みも許されません。直接患者さんを診察する医師や看護師の場合、想像以上に体力を使う仕事です。

 

逆に「やりがいは?」という聞かれたときの多くの答えは、「患者さんに『ありがとう』と言われたとき」ということでしょう。他にも「患者さんが良くなったとき」「自分の技術が向上したとき」「チームワークが上手くいったとき」などという声もあるようです。

 

医療法人で働くということは、人の命を預かるということと平等。大変なイメージが強いかもしれませんが、そのぶんやりがいも大きい仕事だといえます。

 

医療法人化する経済的なメリットと、事業展開上のメリット

 

クリニックの所有者・経営者が医療法人である以上、先生への報酬は法人から給与として支払われることになります。つまり給与所得控除を受けることができますし、もっと多くの控除を狙うなら家族を医療法人の役員にして役員報酬を支払うこともできます。加えて所得税や住民税などの個人課税は法人課税に切り替わり最高税率が下がるため、大きな節税効果も見込めます。さらに個人事業では認められていなかった退職金支払いが、院長(理事長)や家族に対して支給可能に。退職金は通常の給与よりも税制面で優遇されるため、こちらも節税に繋がるのです。

 

経済的なメリット以外にも目を向ければ、事業拡大の容易さがあげられます。医療法人となると、分院や介護事業所など複数の事業所を経営できるようになるのです。手広い経営で高収益化を目指す先生にとっては見逃せないポイント。加えて、例えばお子さんにクリニックを承継する際も、医療法人であれば新たに開設許可を受ける必要がありません。

 

法人化するなら、次世代へのバトンタッチも意識すべし

 

節税や事業展開面で多くのメリットを享受できる一方で、医療法人ならではのデメリットもやはり存在します。中でも多くの先生方を悩ますのが、運営管理が複雑化することではないでしょうか。まずもって法人設立の手続き自体が煩雑な上、毎年の事業報告書や資産登記、理事会の議事録など書類作成の手間も飛躍的に増えます。また社会保険と厚生年金への加入義務が生じるため、未加入だったクリニックにとっては費用負担の増大は免れません。

 

もう一つ大きなデメリットは、現在は出資持分のない医療法人しか設立できないということ。出資持分とは、出資額に応じて有する財産権の一種。この権利がないということはすなわち、クリニック設立時にいくら出資していようとも、法人が解散することになった際の残余財産は出資者に分配されないということです(基金拠出型医療法人であれば持ち出した金額分だけは戻ってきます)。医療の公益性・非営利性という観点から、残余財産は国や地方公共団体などに帰属する取り決めになっているのですが、「懸命に貯めたお金を没収される」とも捉えられるため、後継ぎのいないクリニックにとっては法人化の大きなネックとなっています。そのため医療法人化については、自分の代だけでなく次の世代まで見通した上で検討をした方が良い、と言えるのではないでしょうか。

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