テナントでの開業の実態

ランニングコストが思わぬ負担になる場合も

 

人生で初めての開業を目指す先生にとって、いきなり新築・戸建てでクリニックを構えるというのは、経済面でのハードルがかなり高いもの。資金潤沢とは言えない方が大多数でしょうから、イニシャルコストが少なくてすむテナント開業に人気が集まるのも無理はありません。ただしその手軽さの裏返しとして、賃貸物件ならではの留意点もいくつか潜んでいます。そこで今回は、テナント開業を目指す場合にあらかじめ気をつけておくべきポイントについてお伝えしていきます。

 

まずは気になるお金についての留意点から紹介しましょう。テナント物件を闇雲に下見していると、どうしても条件の良い“高嶺の花”的物件に目移りしますが、その時考慮しなければならないのがランニングコスト。オフィス街の一等地ともなると、テナント料はもちろん、駅看板などの広告掲出料も住宅地に比べると割高です。テナント開業を選択しせっかくイニシャルコストを切り詰めたにもかかわらず、ランニングコストへの意識が欠如していると毎月の負担で相殺されてしまうのです。「掛け捨てのような形でこんなに大金を払うのなら戸建てにすればよかった…」と後悔しないよう、開院後の費用まで見越しておくべきです。

 

オーナーの意向やビルのルールで制約が出ることも

 

テナントで開院する場合、先生は一国一城の主といえど賃貸借契約上は大家から場所を借り受けている店子の立場。ビル独自のルールや制約が設けられているときは、それに従わなければなりません。クリニックの集患にも関わってくる事例としては、看板掲出の禁止があげられます。外観にこだわったデザイナーズビルにありがちですが、テナントの看板掲出を禁止している建物があるのです。綺麗なビルに入居できることは集患に繋がるメリットと言えますが、クリニックの存在自体を知られないのでは宝の持ち腐れになりかねません。

 

またビル管理の都合上、診療時間をこちらの自由に決められないこともあります。夜間や休日・祝日も診察することで他院との差別化を図るつもりでいたら、ビル共有部のセキュリティシステム稼動時間とバッティングするため患者がクリニックに入ってくることができない、などといった事態が考えられます。他にも、内装レイアウトの自由度が低かったり、設備の増設が気軽にできなかったりとハード面での制約も数多く見られます。契約後に気づいて唖然としないよう、下見の時点で管理会社およびオーナーに確認しておきましょう。

 

ビル診の特性をつかんだ上で物件を探す

 

テナント開業を選択する際には、いわゆる「ビル診」という営業スタイルの特性も把握しておかなければなりません。それは、「遠方からも患者が見込める」という反面「地域に根付きづらい」ということ。ビル自体に集客力がある場合や、交通アクセスの良い場所に立地している場合などは集患に非常に有利ではありますが、とくに高層階に位置していると「馴染みのお医者さん」という親しみ深いイメージを定着させるのは難しいといえるでしょう。もしご自身の理想が地域密着型の医療を提供することなら、たとえば一階路面などの入りやすくオープンな雰囲気の物件を探すなどして対処することが必要となってきます。

 

また、開院しようとしているビルにどんな業種のテナントが入居しているかは、必ず現場視察しておきましょう。煙や匂いが充満する焼肉店や、店の外まで騒々しいパチンコ店、あるいは妖しげな人物が出入りするような店舗などが同じフロアに入っていると、患者の足も自然と遠のきます。医療サービスを提供する場所としてはクリーンなイメージも相当に重要ですから、できれば開院時だけでなく将来にわたってそのような心配が必要ないビルを選びたいものです。

 

開業直後のピンチの時に活用したい助成金

 

資金調達の問題については以前お伝えしたことがありましたが、それに引き続き今回のテーマも開業医の難問である「お金の話」です。毎回のように「慎重に資金繰りを行なわないと…」とおどかすような話で先生方も耳が痛いことと思います。しかし院長がお金に関するセンスを持ち合わせていないと、クリニックの命運やスタッフの生活は苦境に立たされてしまいます。ご自身の一つひとつの経済的決断にこれほど大きな重圧がかかるという事態は、勤務医時代にはあまり経験できないもの。このことを今一度噛みしめ、「お金の勉強」のつもりでご覧になって下さい。

 

なんとか資金調達に成功しクリニック開業にこぎ着けたとしても、ランニングコストつまり運転資金にある程度の余裕がなければ、経営は途端に火の車になってしまいます。集患数の見通しが甘かったり、各種経費が予想以上に膨らんだりと、開業した直後は収支ともに目論みが外れがち。そのようなピンチのときにぜひ活用していただきたいのが各種の助成金です。

 

助成金はあらかじめ知っていないと利用が難しい

 

そもそも、助成金とはどのようなものでしょうか。ざっくり言ってしまえば、主に国や地方公共団体から給付される返済不要のお金です。融資ではないため、「受けとるだけで返す必要がない」というのが大きな特長。しかも、同じく国や地方公共団体が定めている補助金制度とは異なり、給付のための特別な審査がないことがほとんどなのです(給付金と補助金の違いについては明確な定義がないため慣例としての区分でお伝えしています)。決められた要件さえ満たしていればどの申請者も原則として給付金を受け取れるため、仮に資金繰りに苦戦していない開業医であっても活用する価値があります。

 

ただしひと言で助成金と言っても、ここではすべてを挙げることができないほどの種類が存在しています。しかも中にはかなり知名度の低い助成金もあり、それぞれに申請期間が設けられています。なおかつ年ごとに支給要件など制度が見直されるものも少なくないため、「申請しようと思っていたら制度自体がなくなっていた」ということも。要は「そのとき知っている人のみが得をする」といった状況ですので、利用しようと思ったら最新情報を逐一チェックしておくことが必要です。

 

お金のやり繰りのひとつの手段として

 

最後に、クリニックをはじめ医療機関が利用できる助成金の一例を紹介しておきます。募集中の助成金は年や地域により異なるため、先ほども述べたように利用の際は最新情報を確認するようになさって下さい。「苦しい時の助成金頼み」と言ってしまうと聞こえは良くありませんが、開業医として、そして経営者としては、「こういうお金のやり繰りもあるのだ」ということを覚えておいて損はないでしょう。