地域包括ケアシステム

地域包括ケアシステムとは?

 

日本の65歳以上の高齢者人口は2025年に3,657万人となり、2042年には3,878万人となってピークを迎えることが予測されています。日本では今後も高齢化はますます進み、認知症高齢者をはじめ、65歳以上の単独世帯や65歳以上の夫婦のみの世帯がさらに増加していくものと見込まれています。また、75歳以上の後期高齢者の人口は、都市部では急速に増加するとともに、もともと高齢者人口の多い地方でも緩やかに増加することが予測されています。都市部では横ばいの人口増、地方では人口減少が見込まれているなか、このように後期高齢者の増加が予測されることは、高齢化が社会に深刻な影響を及ぼしていくことが予想されます。

 

戦後のベビーブーム時代に生まれた、いわゆる団塊の世代と呼ばれる人たちが75歳以上の後期高齢者となる2025年には、医療や介護のニーズがよりいっそう増大することが予想されています。厚生労働省では、この2025年を目途に、それぞれの地域で、地域の実情に合った医療・介護・予防・住まい・生活支援が一体的に確保される体制を構築していくことの必要性を強調し、地域の包括的な支援・サービス提供体制の構築を推進しています。

 

このように、それぞれの地域の実情に合った医療・介護・予防・住まい・生活支援が確保される体制を構築することが、「地域包括ケアシステム」と呼ばれているものです。「地域包括ケアシステム」は、高齢者の介護という視点から出てきた考え方だといえます。

 

平成25年8月6日の社会保障制度国民会議報告書では、「過度な病院頼みから抜け出し、QOLの維持・向上を目標として、住み慣れた地域で人生の最後まで、自分らしい暮らしを続けることができる仕組みとするためには、病院・病床や施設の持っている機能を、地域の生活の中で確保することが必要となる。すなわち、医療サービスや介護サービスだけなく、住まいや移動、食事、見守りなど生活全般にわたる支援を併せて考える必要があり、このためには、コンパクトシティ化を図るなど住まいや移動等のハード面の整備や、サービスの有機的な連携といったソフト面の整備を含めた、人口減少社会における新しいまちづくりの問題として、医療・介護のサービス提供体制を考えていくことが不可欠である」と指摘しています。

 

地域包括ケアシステムは、介護保険制度の枠内でだけ完結するものではなく、介護保険制度と医療保険制度の両分野から、高齢者を地域で支えていくものとなります。一般に、高齢者においては、介護のニーズと医療のニーズを併せ持つケースが多く、そうした高齢者を地域で支えていくためには、訪問診療、訪問口腔ケア、訪問看護、訪問リハビリテーション、訪問薬剤指導などの在宅医療がどうしても不可欠となります。自宅だけでなく、高齢者住宅、グループホーム、介護保険施設などどこに暮らしていても、必要な医療は確実に提供されなければならないということが大前提となります。

 

そこでは、いわゆるかかりつけ医の存在と役割がきわめて重要となります。そして、医療と介護サービスが地域の中で一体的に提供されるようにするためには、医療と介護のネットワーク化が不可欠となり、医療サービスと介護サービスの提供者どうしの連携あるいは医療サービス・介護サービスの提供者と行政との間の連携など、さまざまな関係者どうしの連携をどのように円滑に管理していくかが地域包括ケアシステムの成否の鍵を握っているといえます。

 

その意味では、地域包括ケアシステムは、保険者である市町村や都道府県が、地域の自主性や主体性に基づいて、地域の特性に応じて作り上げていくことが必要とならざるをえません。そしてまた、地域包括ケアシステムの実現のためには、地域包括支援センターの役割がきわめて大きいといえます。

 

介護保険法では、国および地方公共団体の責務について、介護保険の被保険者が可能な限り住み慣れた地域でそれぞれの人の能力に応じて自立した日常生活を営むことができるように保健医療サービスや福祉サービスに関する施策などを、医療と居住に関する施策との有機的な連携を図りつつ包括的に推進するよう努めるべきであると規定しています(介護保険法第5条第3項)。ここに、地域包括ケアシステムの理念が集約されているといえます。

 

地域包括支援センター

 

地域包括支援センターは、地域住民の心身の健康の保持および生活の安定のために必要な援助を行うことにより、地域住民の保健医療の向上および福祉の増進を包括的に支援することを目的として、包括的支援事業等を地域において一体的に実施する役割を担う中核的機関として設置されたものです。市町村はこの地域包括支援センターの責任主体となります。

 

地域包括支援センターの業務の内容は、包括的支援事業と介護予防支援事業とに分かれ、包括的支援事業としては、①介護予防ケアマネジメント、②総合相談・支援、③権利擁護、④包括的・継続的ケアマネジメント支援を行うものとされ、介護予防支援事業としては、指定介護予防支援事業所として要支援者のケアマネジメントを実施するものとされています。

 

地域包括支援センターの設置主体は、市町村または市町村から委託を受けた法人で、市町村から委託を受けた法人には、在宅介護支援センターの設置者、社会福祉法人、医療法人、公益法人、NPO法人、その他市町村が適当と認める法人となっています。

 

地域包括支援センターには人員配置基準が設けられており、保健師、社会福祉士、主任介護支援専門員などが配置されることになっています。そして、市町村は、それぞれの地域包括支援センターに担当する区域を設定させるとともに、介護保険第1号被保険者3,000~6,000人に対して原則として保健師、社会福祉士、主任介護支援専門委員をそれぞれ1人配置するものとされています(小規模市町村の場合には例外基準があります)。  また、指定介護予防支援事業所については、保健師、介護支援専門員、社会福祉士、経験ある看護師、高齢者保健福祉に関する相談業務等に3年以上従事した社会福祉主事のうちから必要数を配置しなければならないことになっています。

 

地域包括支援センターは、平成24年4月末現在、全国で約4,300か所(ブランチ、サブセンターを含めると7,000か所以上)が設置されています。