開業医の節税

開業医になると節税がより身近な関心事に

 

勤務医でいらっしゃる先生方にとって、今のところ「節税」に関する話題というのは、さほど興味の湧かないテーマかもしれません。しかし、いったん開業医となって確定申告を一度でも経験すると、とたんに見逃せない関心事になることは確実です。とくに開院したばかりの時期は、クリニック経営の先行きが見通せず、収入も気持ちも揺れ動きがち。「とっておきの節税テクニックはないものか」「もしや周知の節税法を知らずに自分だけが損しているのでは?」などの思いから闇雲に情報収集へと走りたくなるものです。

 

そこで今回のコラムでは、開業医のための所得税の節税手段を「原則的・基本的」な考え方からお伝えしていきます。というのも世の中には様々な節税策が流布されていますが、それらは本質的にはたった2つの方法に集約されるからです。ご存知の通り、所得税の金額をはじきだす計算式は「課税所得×税率」。すなわち、「課税所得を減らす」あるいは「税率を下げる」いずれかの方法です。

 

経費を漏らさず計上し課税所得を減らす

 

課税所得を減らす大きな要因となりうるのが、所得から差し引きできる必要経費。増やせば増やすほど計算上は節税につながります。ただ、スタッフの給与やクリニックの家賃、設備の維持費など明確なものは別として、交際費や福利厚生費、自宅で使う備品などは、経費として認められる範囲について少々自信がない方も多いようです。例えば、クリニックのコンサルタントや、医薬品メーカーの担当者などとの食事会。この場合は仕事上の付き合いとみなされ経費として認められることがほとんどです。では開業医仲間と居酒屋へ飲みに行った場合はどうでしょう? 「それは経費で落とすのは無理だろう」とお思いになるかもしれませんが、実は“経営相談や情報交換などを目的とする飲み会”であれば認められることも。

 

ここで可否のポイントとなるのが、関連性と妥当性。つまりクリニックの業務に確かな関連があり、かつ一般常識に照らし合わせて妥当な金額であること。このことを税務署署員にきちんと説明できる自信があるなら、堂々と経費計上して構わないのです。同様の理由から、スタッフを連れての慰安旅行や研修会、先生ご自身が参加する学会・講習会などへの交通費・宿泊費についても経費とすることが可能です。仕事のために自宅に購入したパソコンや机なども、きちんとした関連性と妥当性がある場合は漏れのないように計上しておきましょう。

 

クリニックを医療法人化して税率を下げる

 

もう一方の節税策は「もっとドカンと税金が安くなる手はないのか」という先生には朗報かもしれません。経費を積み上げコツコツと課税所得を減らすよりも、クリニックを医療法人化して税率そのものを一気に下げてしまう方法です。日本の所得税は、稼ぐほどに税率も上がる累進課税制度。個人経営クリニックだと、一年間の儲けが1,800万円を超えた分の金額には40%の所得税率が、4,000万円超の金額には45%もの税率が適用されます。しかし医療法人の所得にかかる法人税率は、儲けが800万円以下の部分については15%(2019.4.1以降は19%の予定)、800万円を超えた部分に関しては上限なしで23.4%(2018.4.1以降は23.2%)。つまり1,800万円以上の儲けがあるクリニックは、法人化することで税率を大幅に下げられるのです。

 

もちろん、会計や事務処理が複雑になるなどのデメリットもあるため、節税のみを目当てに法人化することはお薦めしませんし、そもそも節税意識が過剰になり過ぎても開業医として健全な経営姿勢とは言えません。ご自身に合った適切な節税策を探るためにも、まずは今回お伝えした「所得税削減の原則」を踏まえた上で、様々なメディアや先輩たちから知識を学ぶところから始められてはいかがでしょうか。

 

年金の面から開業医の老後資金を考える

 

「いよいよ開業医になろう!」と年来の願望実現に燃えている先生方にとっては、今からリタイア後の生活に思いを馳せるのは気が進まないことかもしれません。ですが個人事業主の開業医には勤務医と違って退職金がないため、いつかは真剣に考えなければならない日が必ず訪れます。安心して仕事に専念できる現役生活を築くためにも、大きなキャリアチェンジとなる開業のタイミングでこそ、引退後の“老後資金”について考えてみてはいかがでしょうか。

 

ご存知の通り、勤務医の先生方には民間企業に勤めるサラリーマンなどと同様の厚生年金が公的年金として用意されています。現在のところ原則65歳になれば加入期間と平均給与に見合った金額が支給されるため、長いあいだ勤務医として勤め上げた医師であれば、将来それなりの収入源となり得ます。

 

開業医になると厚生年金の手厚い保障が無くなる

 

しかし勤務医から開業医へと転身すると、公的年金のいわゆる“2階建て部分”であった厚生年金がなくなり、“1階部分”である国民年金のみとなってしまいます。リタイア後の生活を楽しむのに充分とは言えない額にまで目減りしてしまう恐れがあるばかりか、遺族年金や障害年金についても厚生年金加入者ほどの手厚さが無くなります。そのため開業医となるならば、公的年金に加えて任意加入である私的年金を組み合わせて老後資金の設計をしておくことをお薦めします。代表的な私的年金を以下にあげていきますので、ぜひ検討なさってください。

 

まずは国が運営する「国民年金基金」。そもそも厚生年金と国民年金の年金額の差を解消するために創設された基金ですので、国民年金に上乗せをしていく制度となっています。つまり個人事業主となることで失った「厚生年金の2階建て部分」を補完するようなイメージの年金です。掛け金に上限があるものの、全額が所得控除の対象となり節税に繋がるのがメリットです。

 

年金を複数組み合わせることも検討してみる

 

節税に有利な年金対策と言えば、独立行政法人の中小企業基盤整備機構が運営する「小規模企業共済」もお薦めです。小さな会社の事業主にとって退職金代わりになるような共済制度であり、こちらも国民年金基金同様に掛け金全額が所得控除されるのが魅力です。また、日本医師会に入会するつもりならば、医師会運営の「医師年金」も検討してみましょう。いつでも保険料を増減できたり、加入時ではなく受給開始時に年金の受けとり方を選べたりと、ライフスタイルに合わせた使い方ができる積立型の私的年金です。

 

この他にも、全国の保険医協会による積み立て型の年金制度もありますし、民間の保険に目を向けると、保険料支払いや保険金受取を外貨で行う「外貨建て個人年金保険」や、払った保険料の運用実績によって受けとる金額が増減する「変額個人年金保険」など、元本割れのリスクはあるものの収益性の高い商品も存在しています。堅実本位でいくのか、節税面を重視するのか。あるいはリスクを取って大きなリターンを狙うのか。目的に合わせて複数の年金を組み合わせることも、ぜひ検討なさって下さい

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