医師の独立に関して
開業のタイミングと医師の年齢
近年ではクリニック開業を意識し実際に行動に移す医師の年齢層が拡大しているという事実があります。早くも30代前半から独立を目指す医師がいる一方で、50代後半になって開業を決意する医師も増加傾向にあるといいます。もちろん今でも新規開業する年齢のボリュームゾーンが40代であることに変わりはないのですが、このような年齢層の拡大は何を原因として起こっているのでしょうか。「価値観の多様化」と言ってしまえばそれまでかもしれませんが、クリニックや開業医を取り巻く現状と無関係ではないはずです。医療業界の風向き、そしてご自身の年齢について思いを巡らすことは、「いつかは開業」とお考えの先生にとってその「いつか」を明らかにするためのヒントとなるかもしれません。
開業医を目指すなら急がないと不利?!
医科大学や大学医学部に18歳で現役合格し、6年間学んだ後に医師免許を取得。そこから2年の前期研修を経た26歳が現在の開業可能な最短年齢ですが、実際にはさらに後期研修に入る医師たちがほとんど。卒業から10数年間をかけて、幅広い知識と経験、医療機器の操作や患者とのコミュニケーションスキルを積み上げていくのです。そして医師としての自信がついた40代前半ほどのタイミングでクリニック立ち上げを意識する…、というのがこれまでの開業医のモデルケースでした。
ですが医局制度の弱体化とともに、若い医師たちは自分の進路は自分で切り開くこととなりました。早いうちから将来のプランを設計しなければならなくなった彼ら/彼女らが見いだした結論は「開業するなら一刻も早く」。なぜならクリニックを開くのに有利な開業適地は、都市部を中心に年々減少する一方。また昨今の医療費抑制への流れが変わらない限り、医療機器などに投資した開業資金の回収は、長引けば長引くほど不利になることが予想されます。つまり、「今の内に良い場所を見つけてサッサと開業しないと旨みが少ない・やっていけない」と判断したのです。
理想の将来のために、いま何をすべきか
将来を見据えた若い医師たちが開業を急ぐ一方で、「開業の高齢化」も進んでいるのはどういう訳でしょうか。これは日本人の平均寿命が長くなり、元気な高齢者が増えてきたことと無関係ではありません。便宜上「高齢化」と表現しましたが、今の50代・60代は肉体的・精神的にも一昔前の同世代よりもずいぶんと若々しく、社会への参加意欲も旺盛です。「診療の第一線から退くにはまだ早い」と、定年退職のない開業医への道を選んでも不思議ではありません。
ではいったい、開業するのにベストなタイミングとはいつなのでしょうか。煎じ詰めれば「人それぞれに異なる」と言ってしまうしかないのですが、近頃の若い医師や50代以降の医師たちの例を見ると、「将来、自分がどうありたいか」を明確にイメージしなければその答えにはたどり着けないようです。医師としてのキャリアパスと、一個人としてのライフプラン(とくに女性の場合ですと出産も大きなイベントです)の中で、どこに独立・開業が位置するのか。5年後・10年後・20年後の先生ご自身の理想像を頭に思い浮かべ、「そうなるために現在何をすべきか」について今一度考えてみることをお薦めします。
開業を志したなら、早い段階で「経営の基礎」を学べ!
無事に開業でき、診療所の経営が軌道に乗った後も、開業医は医師であると同時に経営者でもあるのだと意識し続ける必要があります。
高性能の医療機器を導入したり、優れたスタッフを雇用し続けたりするためには、持続性の高い安定的な経営が必須です。責任を持って地域の医療を支え続けるためには、経済的な基盤の安定が欠かせないのです。
診療所は一つの事業所であり、さまざまな機能で成り立っています。レセプトを基に診療報酬を請求するためには医療事務が欠かせません。看護師や事務員などの人材を雇用し育成する人事、医療機器や物品の購入等お金の使い方を管理する財務、納税に関わる税務など、診療所が円滑に経営され続けるためには、多様な業務が適切に行われることが不可欠です。
もちろん、医師がすべてを自身で手がける必要はありませんが、経営者である以上、適切に遂行されるように監督する責任があります。ところが医学部や勤務先の病院では、医療以外の事柄を学ぶ機会がほとんどないため、医師の多くは経営について素人です。
開業を志したら早い段階で経営の基礎を学び、税理士や会計士等、支えになってくれる人脈を確保することが大切です。
開業を目指すなら、勤務先は「戦略的に選択」する
勤務医はたいてい、いくつかの病院を渡り歩きます。医局に属している人は指示に従って系列病院の中を巡ることが多く、勤務先を自発的に選択するケースはあまり見られません。
地域の医療事情を平準化するためには、ある程度意味がある人事の在り方ですが、開業医を目指すならその目標に役立つよう、戦略的に勤務先を選ぶことを私は勧めます。特に、勤務医として最後に赴任する病院は、開業につながるよう選ぶと在宅医療で成功する確率が高まります。
開業資金を貯めるため、給与をより多く得られる病院を選ぶのも一つの策ですが、開業を考えている地域の病院に勤務するという手法も有効です。
開業後は勤務医時代に診てきた病歴等を知っているため、診療所にやって来た患者に対して、不要な検査等をオーダーすることもなく、すぐに適切な医療を施せます。またお互いの信頼関係ができているため、在宅医療が必要になった際に、円滑に移行できることも医師、患者双方にとって大きな利点といえるでしょう。