開業医はどれくらい稼げるのか
将来のニーズや重要度の高まりが「儲かる科」を生む
クリニックをオープンさせ開業医となることを目指している先生であれば、「今なら○○科が儲かるよ」といったような気になる話を一度や二度は耳にされたことがあるでしょう。また診療科別の平均年収などの興味深いデータが、様々なメディアで報じられていることもご存知でしょう。一般的には「外科系より内科系クリニックが高収入を見込め、眼科や小児科はそれ以上、自由診療をメインとする美容外科クリニックであればさらに儲かる」などと言われているようですが、これらの情報が正確に現状を言い当てているかどうかは分かりませんし、仮に正確だったとしてもあくまで“現時点で儲かっている科”を述べているに過ぎません。高度に情報化が進んだ今の世の中は恐るべき速度で変容していますから、先生方が開業医となる頃には別の診療科が“儲かる科”として取り沙汰されていることも充分に考えられます。そこで今回のコラムでは、将来的なニーズや重要度を勘案して“これから儲かりそうな科”をご紹介していきます。
精神科と総合診療科の存在感が急速に増大
これから“儲かる科”になるだろうと予想される診療科としてまずあげられるのが「精神科」です。現代は、苛烈を極めるストレス社会。鬱病をはじめとする精神疾患の患者数は近年著しい増加を見せていますが、精神科受診への抵抗が根強い日本人のメンタリティも相まって潜在患者数は膨大な数に上ると予想されています。その上、社会の高齢化に伴って認知症患者の数も急増中。身体の衰えに対する不安から精神的負担を覚えるお年寄りもますます増え、精神科医は幅広い年代層から必要とされる“儲かる医師”となるでしょう。
次に注目したいのが「総合診療科」。昨今の医療政策は、医療機関の規模や有する設備ごとに機能分化させ効率化する方向へと舵を切っています。そこでクリニックに求められるのが、主治医機能すなわち“かかりつけ医”としての役割。複数疾患を持つ高齢患者の増加や、介護までを一体化して提供する地域包括ケアシステム構築に対応するためには、領域を問わない全人的医療の担い手が必要なのです。医療が専門家・細分化されればされるほど、全体を俯瞰できる総合診療科医の存在感は高まっていくことでしょう。厚生労働省が押し進めていくこの方針は、言わば国策。診療報酬の改定などで評価され、より“儲かる診療科”となっていくかもしれません。
供給不足が見込まれる診療科にもチャンスあり
また、「整形外科」や「リハビリテーション科」のニーズ・重要度も飛躍的に上昇します。平均寿命が一段と延びた日本人は、骨や関節、筋肉などの運動器をこれまでにないほど長期間使用し続けることになりました。正常な機能を保っていられなくなった運動器がもたらすのが、歩行や立ち座りなどの日常生活に支障をきたす「ロコモティブシンドローム」。クオリティ・オブ・ライフに高い価値を見出すようになった日本人は、健康寿命の維持にお金を使うことを厭いません。ロコモ対策に両科が担う役割は、今以上に増大するはずです。とくにリハビリ医は現在でも需要に供給が間に合っておらず、将来的に“儲かる科”となる可能性を大いに秘めています。
今回は「儲かる科は?」というテーマでお伝えしてきましたが、儲かるからといって、それまでのキャリアと全く無関係な科で開業医となるわけにもいかないのが現実です。ですから「自分が選んだ診療科はどうやら儲からなさそうだ」といった際に、簡単に諦めずどうすれば打開できるか──例えば、潜在患者は多いのに専門医が少ない地域にクリニックを開くなど──を考えていく一助にしていただけると幸いです。
福利厚生とは「スタッフに提供する給与以外の報酬」
クリニック開業に向けて準備を進めている真最中は、開業地選定や資金計画、内装の検討など、目に見えて大きい懸案事項にばかり気をとられてしまいがち。しかし実際にはついつい後回しにしていまいそうな細かな事柄についても逐一検討し、判断を下していかなければなりません。一見たいしたことのないように見える事案でも「適当に決めておけばいいや」とぞんざいに扱っていては、知らず知らずに不利益を被っているかもしれないのです。今回お伝えしていく福利厚生も、そんな“意外に重要”なものだと心得ましょう。
そもそも福利厚生とは何でしょうか。一般的には「使用者が、労働者やその家族の健康や生活の福祉を向上させるために行う諸施策」などと言われていますが、開業医の立場からもっと有り体に言えば「クリニックのスタッフに提供する給与以外の報酬」のこと。「働いてもらった分の給料はきちんと支払うのに、その上さらに報酬が必要なの?」と思われる先生もいらっしゃるでしょうが、この福利厚生を上手に活用できれば、クリニック経営の成功につながるかもしれないのです。
社会保険にかかる経費はクリニックにとって軽くない
福利厚生は法律にもとづく「法定福利厚生」、すなわち社会保険(健康保険・厚生年金)や労働保険(雇用保険・労災保険)と、慰安旅行やレクレーションに代表される「法定外福利厚生」に大別されます。ここでは、開業時に関係してくる法定福利厚生について説明していきます。
スタッフを雇うことでかかる社会保険・労働保険の保険料は、雇用者が全額・あるいは一部を払わなければならず、その負担は決して軽いとはいえません。しかし個人で開業したような小規模なクリニックであれば、保険加入の対象とならない場合があります。労働保険については、スタッフを一人でも雇うならば医療施設の規模に関わらず加入義務が発生しますが(雇用保険の対象者は週20時間以上の労働かつ雇用見込31日以上)、社会保険については常勤スタッフが5人未満の個人経営クリニックなら加入義務がなく任意加入となっています。そのため、「最初からそんなにスタッフを雇えないし、加入しなくていいなら負担が少なくて助かる」と考える開業医の多くが、社会保険に未加入のままクリニックを開いています。
優秀なスタッフを集め、能力を発揮してもらうためのコスト
しかし未加入のクリニックが多いということは、逆に考えれば「社会保険を求人採用における奥の手」ととらえることも可能です。すなわち小規模クリニックにもかかわらずあえて社会保険を完備すれば、医療系の求職者に向けて「スタッフが働きやすい職場環境」というアピールができるということ。実際のところ、社会保険の有無をチェックする求職者は多数派で、他の条件が気に入ったとしても保険未加入がネックとなって大きなクリニックや病院へと志望変更することは珍しくないといいます。
自分の能力に自信のある人ほど良い環境を求めて求職活動をするでしょうから、保険完備によって他クリニックとの差別化ができれば、より良いスタッフの確保が期待できます。たしかに保険料負担の分は経費が増しますが、それは優秀な人材を集めるためのコスト、さらにはその優秀なスタッフにこれからずっと力を発揮し続けてもらうための「給与以外の報酬」でもあります。医療といえども煎じ詰めればサービス業ですから、人材は宝物。そのためにも、福利厚生を上手く活用なさって下さい。