スタッフの離職率

高い離職率のままでは生産性が上がらない

 

自分のクリニックを持ち経営者になると様々な数字に神経をすり減らすものすが、今回のメールマガジンのテーマもそんな気になる数字、「離職率」です。もし今、「離職率が高かろうが低かろうが、クリニックに必要な人数を確保できてさえいれば結局は問題ないのでは?」と考えた先生がいらっしゃるなら要注意。「ブラック企業」という言葉の流行が示す通り、以前にも増して現代人は雇用環境にシビアです。高い離職率を放置していると、いつの間にか「退職者を量産しているブラッククリニック」という噂が立たないとも限りません。

またスタッフが頻繁に退職することによる負担増は、補充採用のためのコストと時間ばかりではありません。少人数で運営しているクリニックでは一人ひとりが受け持つ仕事が多岐に渡る上、特定人物のスキルに依存する「業務の属人化」も起きやすいため、退職者が出る度に業務フローの見直しを迫られることも。離職率の高いクリニックでは、日々の業務の効率化・洗練化が進まず生産性が上がりづらいのです。

 

スタッフの働きに見合う価値を与えているか

 

しかしやみくもに対策を講じていても、離職率はなかなか下がってくれないでしょう。退職者を次々と生みだしている原因に、しっかり目を向けることが必要だからです。そのためには、クリニックとスタッフ両者の立場を見つめ直すことから始めなければなりません。

雇う側と雇われる側の関係は、本質的にはギブアンドテイク。スタッフは自らの時間とスキルを提供するかわりに、それに見合うだけの価値をクリニックから受けとっています。離職率が高止まりしているということは、クリニックがスタッフにしかるべき価値を与えていない状態が続いていると推測されます。「価値」とは何も給与の金額ばかりではありません。業務を滞りなく進めるための適切な指導であったり、成長と学習の機会であったり、充実した福利厚生や健全な職場環境、あるいは働きぶりに対する正当な評価であったりとクリニックにより様々です。もちろん、すべてを一気に改善することは難しいでしょうし、逆に働き以上のものを与えていては経営が傾きかねません。しかしスタッフへのヒアリングなどから優先順位の高いものを見つけ出し、足りていないものを積み増すことで、徐々に離職率は下がっていくはずです。

 

離職率の低下でクリニックに好循環が生まれる

 

一般的な企業に比べ、クリニックのスタッフには女性が多いことにも目を向けなければなりません。男女平等が進む現代にあってもなお、結婚・出産・育児の大きなライフイベントが発生した際に進退を問われるのは女性、という家庭は多数派だからです。女性の働きやすさに関する各種支援制度や取り組みを見直すことが、離職率低下に繋がる場合も相当数あるでしょう。

 

もう一つ、少人数のクリニックに特徴的な職場環境としてあげられるのが、アットホームな人間関係です。それ自体は決して悪いことではないのですが、人と人との距離が近過ぎるゆえに大小問わずイザコザが起こりやすいことも事実。「どの新人も長続きしないと思ったら、古参スタッフによる職場イビリが原因だった」ということも珍しくありません。院内がオープンな雰囲気を保っているかどうか、常に気を配っておくことが院長には求められます。

離職率の低い状態が続くと「働きやすいクリニック」という自覚がスタッフ間に芽生え、安心して仕事に取り組める土台となります。そしてその安心感は、さらなる離職率の低下をも引き寄せることでしょう。クリニックの「健やかな好循環」は、そこに働くスタッフの健やかさから生まれるのです。

 

初めての開業では経験者を採用したくなる

 

クリニック開業を目指している先生ならば、「どんなスタッフと一緒に働こうかな」とワクワクした思いを巡らせたことが一度はあるのではないでしょうか。しかし実際に採用面接を始めてみると、何を基準に合否判断していいか分からなくなってしまうことも珍しくありません。そうなると「初めての開業だし、経験豊富なスタッフがたくさんいた方が頼りになりそう…」という考えが頭をもたげ、医療機関での職務経験を持つ人を優先採用してしまいがち。たしかに新規開業するクリニックにおいては仕事の流れもルールもゼロから作り上げていかなければならないため、看護師にしても事務職にしても現場経験のないスタッフだけでは最初からスムーズな運営は困難です。ただ、だからといってオープニングスタッフを転職組やベテランオンリーで固めてしまうような採用のあり方に、何も問題はないのでしょうか?

 

クリニックに悪影響を及ぼす独善的な経験者も

 

「経験者」と呼ばれる人の中には、ごくまれに周囲のスタッフに悪い影響を与えるような問題行動をとる人物もいます。例えば、自分勝手な流儀で仕事を進める者。「私は数々の医療現場を渡り歩いてきたベテランだ」という自負や経験則から、クリニックのルールを無視し独善的な判断で行動してしまうのです。さらには、自分の意にそぐわないと院長に食ってかかる人さえも。このようなスタッフが一人でもいると業務の連携が取りづらく非効率的なばかりか、院内の秩序は早々に乱れていきムードもすさんでいってしまいます。

また、そもそもひと言に経験者といっても、それがクリニックにマッチする経験なのかどうか、という問題もあります。たとえば大病院に長期間勤めていたという経歴だけを見て、「何を任せても安心だ」と考えるのは早計でしょう。一人で幅広い業務をこなさねばならないクリニックと違い、大きな病院では看護師も事務職も分業化が進み、「割り当てられた一部の業務しか行なっていなかった」ということも多いにあり得るからです。さらに、経験豊かといっても転職歴が豊富すぎるのも考えもの。短い期間で転職を繰り返しているような人は、いわゆる“トラブルメーカー”かもしれません。転職の理由が納得のいくものかどうか、きちんと面談して確かめましょう。